人生の相対性理論(27)


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§5 生と死の相対性

 ついに宗教の領域まで入り込んでしまいました。胡散臭いですか?
 まあ、そう警戒なさらずに、ここまできたらどうぞ最後までおつきあいください。

 最後は、「絶対」である死さえも相対化する試みです。
 人生の終盤にあたって、いかに苦しまず、最後まで楽しく生き抜けるかという方法論、考え方を探っていきます。

犬の気持ち・カエルの性格

 死を扱うとなると、どうしても哲学や宗教の領域に踏み込まざるをえません。
 宗教的、哲学的な話はデリケートな要素が含まれるだけに、なるべく先入観を捨て、白紙の状態で向き合う必要があると思います。
 自分では合理的に、あるいは極めて科学的に考えているつもりが、実はその態度の裏側には情緒的な思いこみや固定化された主義主張が隠されていることが少なくありません。そうした要素を極力排除して考えていきたいのです。

 そこで、最初によく見聞きする話題を二つ取り上げてみます。
 一つは「人間は他の生物のことを完全に理解できるのか」というテーマです。
 人間は犬や猫より相対的に優れた脳を持っている、とはいえますが、だからといって人間が犬や猫の「気持ち」を理解できるかというと、それは別の話でしょう。
 よく「犬の気持ち」「猫の気持ち」を解説している本やサイトを見ます。例えば、「猫が飼い主の足に身体をすりつけるのは、自分の匂いをつけて自分の所有物だと主張するため」などというもの。
 そうした解説を読んで、へえ~、そうだったのか ……と納得する人が多いでしょうが、私はこうした解説にかなり懐疑的です。
 「犬の気持ち」を人間が人間の言葉で説明することは、犬の主観・心という、人間には絶対に体験できないものを、無理矢理人間の心(気持ち)と相対化させているのではないでしょうか。
 そもそも、犬や猫は人間とは脳が違う、つまり理解力や生理、感覚が違うのですから、人間が共有している「寂しい」とか「愛しい」「憎い」「好き」「嫌い」「楽しい」といった感情、感覚に合わせて犬や猫の「気持ち」を解釈することには限界があるのではないかと思うのです。

 例えば、人間の可聴域(聴き取れる周波数帯域)は若いときでおよそ20~20000Hz(ヘルツ)ですが、犬は40 ~65000Hzくらいといわれています。
 最近は犬も長生きし、15年以上生きる犬も珍しくないですが、歳を取ると飼い主がすぐそばで大声で呼んでも聞こえず、ずっと寝ていたりします。しかし、そこで金属が触れあうような高い音を出すと、それが小さな音でもびっくりして飛び起きます。
 人間は歳を取るにつれて高音域が聞こえにくくなるのに、犬は逆なのですね。
 これはもともと犬の聴覚が3000~12000Hzくらいの音に対して敏感だからで、聴覚全体が落ちてくると、3000Hz以下、12000Hz以上の音は聞こえにくくなっても、3000~12000Hzの音はしっかり聞こえていることが多いからです。
 人間の話し声は、男で400~600Hzくらい、女性で800~1000Hzくらいですから、老犬には人の声の周波数は低すぎて、すっぽり聞こえなくなるわけです。
 世界から人の声を含む数百ヘルツ帯域の音が消え、3000Hz以上の高音だけが聞こえるというのはどういう感覚でしょうか。
 3000Hzの音というのは、人間の耳にはキ~ンという相当高い音として聞こえます。12000Hzとなると、ほとんど音としては認識できないような、シンバルのシャ~ンという空気感のようなもの、あるいは耳の奥で絶えず鳴っている耳鳴りのような感じでしょうか。
 若いときは聞こえていた飼い主の声が聞こえなくなり、蚊の羽音や小鳥のさえずり、木々の葉がこすれ合う音は以前と同じように聞こえる。そういう世界に老犬は生きているわけです。飼い主が高齢者なら、聞こえている音の領域が逆ですね。このことだけでも「犬の気持ち」を正確に想像するのは難しいと感じます。

 もちろん、犬や猫の気持ちを推し量ることはできます。
 暑くてだるいんだろうな、とか、今はいちいち反応するのが面倒くさいんだろうな、という程度のことは、普通に接していれば分かります。
 人間以外の「下等」な生き物には複雑な感情なんか存在しないという人もいますが、これもずいぶん傲慢な断定です。犬や猫には人間には分からない、人間が持ち合わせていない「感情」、つまり「犬の気持ち」「猫の気持ち」があるのではないかと想像するほうが自然ではないでしょうか。
 私はタヌキと8年間暮らした経験がありますが、タヌキには人間が知覚できないような「霊感」があるのではないかと感じました。
 人間は、自分の知覚能力や理解力の及ばない超越的な存在を「神」として説明しようとし、その結果いろいろな宗教も生まれたわけですが、もしかしてタヌキは人間よりもずっと「神」的なものを感じ取りながら生きているのではないかと思ったものです。
 しかしこれがカエルの気持ち ……などという話になると、ほとんどの人は「なんじゃそりゃ」「ついていけないよ」となるでしょう。
 もちろん私も「カエルの気持ち」は分かりません。でも、カエルの個性を観察することはできます。種類によって性格が違いますし、同じ種のカエルでも個体によって性格が違います。
 用心深いとか物怖じしないといった性格の違いは明らかにあるのです。




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