人生の相対性理論(11)


←前へ   目次目次   次へ⇒
HomeHome  

言葉や概念を絶対化する危険性

「絶対」という言葉が入っていなくても、特定の言葉や概念を「絶対的な価値を持つもの」だと思い込まされていることがあります。
 例えば「エコ」という言葉の持ついかがわしさに、今では多くの人が気づいていますが、それでも「環境保全」「省エネルギー」「リサイクル」「自然○○」といったフレーズでたたみ込まれると、それ以上疑っても仕方がない、環境にいいのであれば言われたとおりにしよう……というムードになりがちです。
 2002年、日本政府は「自動車税種別割のグリーン化」という名のもとに、排出ガスや燃費性能の優れた車については税を軽くする一方で、新規登録から一定年数を経過した車には重くするという法律を制定しました。
 2021年現在、ガソリン・LPG車(ハイブリッド車などのエコカーを除く)は新車新規登録から13年、ディーゼル車は11年が経過すると約15%重課税になり、軽自動車税は13年を経過すると約20%の重課となります。
 製造から13年を過ぎた自動車は、1年に100kmしか走らせなくても所有しているだけで重い税金を課せられる一方で、まだまだ走る自動車を新車に買い換えると税金が優遇されるのです。


 2016年のデータですが、ひとつ具体例を挙げましょう。
 3500ccの乗用車の本来の自動車税は5万8000円ですが、75%軽減されて1万4500円。  かつて「いつかはクラウン」という名コピーがあったトヨタの高級車クラウンの最上級グレード「マジェスタ Fバージョン」(排気量3500 cc、車両総重量約2.6トン。価格約700万円。2016年時点)は、本来の自動車税は5万8000円ですが、エコカー減税対象車なので、購入時には、自動車重量税、自動車取得税、自動車税を合わせて約 24万7200円の税が免除されます。
 自動車税だけをとっても、本来は5万8000円のところ、75%軽減されて1万4500円です。
 一方で、1996年製造で今年20年目になる我が家の愛車スズキのX-90(排気量1600 cc。車両総重量約1.2トン)は、自動車税が15%重課税されて毎年4万5400円(本来なら3万9500円なので5900円の増税)が徴収されています。

↑2019年の自動車税納付書。我が家ではこの重課税に耐えられず、直後にX-90は15万円で手放して、17万円で軽自動車を購入した。

 軽自動車や原動機付き自転車は田舎では日常生活の足として欠かせない「生活必需品」ですが、これらも2016年度から13年超のものは自動車税を7200円から1万2900円へ、原動機付き自転車は1000円から2000円へと一気に引き上げられました。

 一例として、2001年発売モデル軽自動車のスズキ ワゴンRは、排気量660cc、重量が800kgで、燃費は22.5km/l(N-1グレード)ですが、このワゴンRの自動車税は1万2900円です。
 前述のクラウンマジェスタ(3500 cc、車両総重量約2600kg、公称燃費18.2km/l)の自動車税14500円(75%減税)と1600円しか違いません。

 この「自動車税のグリーン化」と称される税制は、「環境負荷の大きい自動車には重課、環境負荷の小さい自動車は減税もしくは免税」という主旨だと説明されています。しかし、実際にはこの税制は明らかに環境負荷を増やすものであり、「エコ」だの「グリーン」だのという言葉を詐欺的に使った資源浪費加速政策といえます。

 自動車が環境に与える負荷は燃費性能だけで計れるものではありません。
 自動車や家屋といった「耐久消費財」は、本来、長期間使うことで製造時の環境負荷(資源消費、エネルギー消費)分を取り戻すことが全体としての環境負荷を下げることになります。自動車でいえば、製造時の環境負荷が少ない軽自動車などを長期間使い続けることこそ「エコ」であり、製造時に大量の資源とエネルギーを使っている大型車や高級車を短期間で乗り換えることこそ環境に不要な負荷をかけます
 製造時にどれだけの資源とエネルギーを使ったか、そのエネルギー消費分に対してどれだけ有効な仕事(人や物を運んだか)をして、初期投資分を回収できたかという視点こそが最も重要です。ものを長く使えば税金が軽減されるというのがあたりまえのことであり、実際、世界中ではそのような法律になっています。
 燃料の消費が環境負荷を生むのはあたりまえですが、その意味であれば燃料税が正しく環境負荷の度合に従って税金として国に納められています。
 古いクルマを走れる状態のまま車庫にしまっている人は、燃料をまったく消費せず、排気ガスも出さず、道路を傷めることもないのに、重課税を課せられるのです。

「再エネ賦課金」という大規模詐欺

 さらにひどいのは電気料金に組み込まれている「再エネルギー賦課金」です。
 「自然エネルギー」「再生可能エネルギー」といった言葉は、一種「絶対的善」であり、聖域化してしまっているため、地球環境を破壊し、貴重な地下資源を浪費するという悲劇的な結果を招いてしまっています。

 風力発電や太陽光発電は、発電量を人間がコントロールできない発電システムです。
 地熱発電や流水型小水力発電のように、一定の発電量を常時維持できるシステムなら、たとえ発電量が少なくても役に立ちます。その上に別の発電方式の電気を積み上げ、必要な量の電気を得ることができるからです。
 また、火力や貯水式水力のように、発電する時間帯や発電量をコントロールすることができる発電方式であれば、需要に応じて小まめに出力を調整できます。
 しかし、風力発電や太陽光発電はそれができません。30分先の発電量予測さえきちんとたちません。30分後に定格出力(Max)の電気が得られるのか、発電量がゼロになってしまうのか分からないのです。
 風力発電の場合、電気が余っている夜間であっても、風が吹いて発電したときは強制的に全量買い取りさせて、風がやんで発電しなくなればそれっきり。他でまかなってね、という代物……これでは発電施設として役に立ちません。
 現実に、電気が最も不足する「サマーピーク」と呼ばれる真夏の午後1時から4時の時間帯には、ほとんどの風力発電所がまともに発電できていません猛暑時には風が吹いていないからです。
 この根本的な欠陥を補うため、最近ではNAS電池という大型蓄電池を併設し、ウィンドタービンが発電した電気を一旦蓄電し、必要なときに取り出すという方法が採用されるようになりましたが、これはエネルギーロスが大きすぎて、かえって資源の無駄遣いになります。NAS電池は高温にした液体ナトリウムを使うため、もともと電池自体がエネルギー(電気)を必要とします。エネルギー収支の悪さを無視して補助金を注ぎ込むか、果てしなく電気料金を値上げしていくかしない限り、使い続けることはできません
 また、無風で曇りや雨、あるいは夜間のときは風力発電、太陽光発電からえられる電力はゼロですから、風力や太陽光発電所を増やせば増やすほど、その落差を埋めるために火力発電所などを待機させておかなければなりません。
 火力発電は、細かく出力調整を繰り返すほど燃費が悪くなります(自動車の燃費と同じで、一定の出力を続ける運転のときに最大の燃費効率となります)。

↑いつ土砂災害を引き起こしてもおかしくない、デタラメなソーラーパネル設置
↓風景が一変した伊豆半島


 電力事業はいかに小さなエネルギー消費で大きなエネルギーを取り出すかという計算問題です。取り出せるエネルギーが注ぎ込むエネルギーより小さければ意味がありません。風力発電や太陽光発電で1の電気を得るために、直接燃やせば2の電気を得られる地下資源を使うのであれば、最初から地下資源を直接使って2の電気を発電したほうがいいに決まっています。

「自然」エネルギー=エコ=絶対……ではありません。
 現代文明は石油を代表とする地下資源を使うことで成立しており、「金がかかる」ことは地下資源を使う度合いが高いことを表しています。風力発電や太陽光発電が「高くつく」のも、そういう原理からだ、ということを隠すことで、不当に金儲けしている人たちがいるのです。
 持続可能な社会を訴えるのであれば、詐欺的な再生可能エネルギー促進ではなく、まずは資源やエネルギーを極力使わない社会にして行くための「省エネルギー」が何よりも重要です。
最新の電気料金の内訳。支払額の約13%が再エネ賦課金。

 税金・補助金を投入してエネルギーの生産コストを歪めると、本来のエネルギー効率と価格の相関性が狂ってしまい、結果として地下資源の浪費につながりかねません。

「クラウンでは嫌だ、レクサスにしろ」とだだをこねた地方創生大臣

 クラウンマジェスタとワゴンRの比較は、分かりやすく例にしただけで、別にクラウンのオーナーに恨みがあるわけではありませんので誤解のないようにお願いします。

 ここからは完全に「オマケの話」です。
 石破茂氏は地方創生大臣に就任した直後、内閣府が2013年11月に購入した公用車のトヨタ「クラウン」を、たった1年3カ月で“乗り捨て”にして、2014年2月に月39万円のレンタカー代を支払ってトヨタ「レクサスLS460」に乗り換えた後、さらに3月、今度はワンランク上の「レクサスLS600HL」を購入させました
 2015年3月30日の衆院予算委で、民主党の玉木雄一郎議員が、閣僚の公用車について質問したことで明らかになりました。
内閣府の運用ルールでは、大臣の公用車は「12年間使用か、10万キロ走行」をメドに買い替えるのが一般的で、わずか1年余りで乗り換えるなんて聞いたことがない。しかも、クラウンは新車で約500万円で、レクサスはその2倍の約1100万円もする。
(略) 「石破さんは農相の時、トヨタの最高級車『センチュリー』が公用車だったが、地方創生相はクラウン。そのため、『なぜセンチュリーじゃないんだ』とダダをこねたらしい。慌てた内閣府が『LS600HL』の購入を決めたが、石破さんは納車までの2カ月間がガマンできず、やむを得ず『LS460』をレンタルしたようです」(永田町事情通)
クラウンに文句 公用車次々乗りかえた石破大臣の“金銭感覚” 日刊ゲンダイDIGITAL 2015年3月

 地方創生大臣というのは、軽自動車が必需品の地方の文化や経済を応援する立場だと思いますが、こういう感覚の人が「地方を創成」する旗振りをしたとき、どんな政策を進めるのでしょうか。
 500万円のクラウンを1年ちょっとでお払い箱にして1000万円超のレクサスに買い換えさせるのも、納車が待てないと言って月39万円でレクサスをリースさせるのも、原資は全部税金です。その税金を払っている庶民は軽自動車の税率を上げられ、長く大切に車を使うと増税されるわけです。

奇跡の「フクシマ」─「今」がある幸運はこうして生まれた─ Amazonで購入で748円

←前へ   目次目次     次へ⇒
HomeHome
Facebook   Twitter   LINE

『裸のフクシマ』(講談社刊)の続編ともいうべき実録。阿武隈は3.11前から破壊が進んでいた。夢や生き甲斐を求めて阿武隈の地へ棲みついた人たちがどのように原発爆発までを過ごし、その後、どのように生きることを決断していったか。なかなか書けなかった赤裸々な実話、エピソードを時系列で綴った記録。
Amazonで購入で購入は⇒こちら