「人間史」を見つめ直す(18)

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江戸時代の世界情勢


イシモリ:  さて、いよいよ近現代史に入っていくわけだけど、幕末から明治にかけてのことは、あまりにも変化が激烈で、しかもその背景が複雑だ。どこに視点を置くか、どの資料や情報を信用するか、それをどう評価するかで見方がまったく違ってくる。
 学校で教える日本史では、誰が何をした、どこでどんな戦が起きてどっちが勝った、……みたいなことを時系列で覚えさせるだけで、その背景にあったものを考えさせない。
 しかも、明治新政府の流れは今もずっと続いているから、徳川を倒した勢力についてマイナスイメージや都合の悪いことはうまく隠している。
 あのときに起きたことは、大和朝廷の日本征服のときくらい複雑なんだよね。
 しかしまあ、古代とは違って、資料はいっぱい残っているから、それらをていねいに紐解いていくしかない。

凡太: はぁ~。なんだか今からため息が出ちゃいます。

イシ: そう言うなよ。私だって、ちょっと考えただけでも疲れてしまうんだから。君たちはまだ若いんだから、しっかり頭を使わなくちゃ。

 というわけで、まずは日本が鎖国している間に諸外国はどんなことになっていたかを確認することから始めよう。
 徳川政権時代の250年以上、日本は対外戦争はおろか、島原の乱以降は大きな内乱もなかった。でも、日本の外では国が次々につぶれたり生まれたりくっついたり、ぐっちゃぐちゃに激動していた。
 まず、アメリカ大陸をあっという間に征服したスペインは、16世紀後半に全盛期を迎えて、1580年にはポルトガルを併合。ポルトガル領になっていた植民地も獲得して、南北アメリカ、アジアを含めて地球をぐるっと一周する領土を持ち「太陽の沈まぬ国」になった。
 しかし、その後は衰退の一途をたどる。
 理由は様々だけれど、ザックリいえば、封建社会が続き、土地の大部分を貴族と教会が所有していたことで、海外から入ってきた銀や資源が国内の産業育成に使われず、利益の多くが、イギリスとオランダの密輸業者によって国外に流出したことが大きいだろうね。
 無敵艦隊と恐れられたスペイン海軍も、1588年にドーヴァー海峡でイギリス艦隊と戦ったアルマダの海戦の帰り道、暴風雨で壊滅的な被害を負ってしまう。
 17世紀に入ると、ドイツのキリスト教新旧両派の宗教内乱から始まった30年戦争を契機に、急速に衰退していった。
 ポルトガルも反乱を起こして分離して、もはや「日の沈まぬ国」とはほど遠い弱小国になってしまった。

凡太: 戦国時代に日本にやって来て、鉄砲やキリスト教を伝えたスペインやポルトガルは、日本が鎖国している250年の間に、もはやヨーロッパの強国ではなくなっていたんですね。

イシ: そう。代わって台頭してきたのが「新興国」と呼ばれる、イギリス、フランス、オランダだね。
 当時、アジアにはすでに活発な貿易ネットワークが形成されていた。インド洋エリアではイスラム商人が、東アジアでは朝貢貿易や倭寇の密貿易が盛んだった。ヨーロッパの新興国はそこに入り込んでいく。
 オランダはインドネシアを植民地化して、香辛料をヨーロッパに運ぶことでボロ儲けした

凡太: 香辛料って、胡椒とかのことですよね? そんなのでボロ儲けできるんですか?

イシ: ゲルマン人は肉が大好きだからね。胡椒をかけるとこんなに美味しくなるんだ~! って感動したんだろうね。ヨーロッパというのは基本的に北国だから、大規模農園とかには向いてない。奴隷に労働させるアジアのプランテーションから輸入したほうがずっと効率がよかったんだね。
 そんなこんなで、17世紀にはオランダはスペインを抜いて、イギリスも抑えて、ヨーロッパの最強国になった。
 だけどその後は、イギリスが一気に最強国へとのし上がった。

帝国主義と資本主義

凡太: なぜイギリスが勝ち上がったんでしょうか?

イシ: いくつかの要因があるけれど、順を追って確認していこうか。

 まず、スペインが衰退した後のヨーロッパは、帝国主義と資本主義という2つのシステムをうまく使いこなした者がどんどん力を蓄積していく。
 帝国主義というのは、よその土地を植民地化して、現地人や、その土地に連れて行った奴隷たちに労働させて富を築くというシステム
 資本主義というのは、土地や工場などの生産手段を私有している金持ちが、生産手段を持たない労働者を雇って労働させ、そこで生産した商品を売ってさらにお金を儲けるというシステム
 どちらも「主義」とついているから思想的なことかと勘違いしやすいけれど、要するに「人が人を支配して富と権力を増大させるシステム」と考えればいいね。
 オランダは商売上手で莫大な富を得たけれど、商人たちはまんべんなく儲けて、一か所に富が集中することがあまりなかった。
 オランダの国力に陰りが見えてきた後、イギリスとフランスが覇権を争ったんだけど、いくつもの戦争でイギリスがことごとく勝利して、フランスの植民地を奪っていった。

 こうしてイギリスは北米大陸の東部、カリブ海諸島の大半、インドの貿易拠点のほとんどをフランスから奪い取ることに成功して、どんどん力を増していったんだ。

 北米大陸東部にできたイギリスの植民地には、イギリス本国や周辺国から大勢の人が新天地を求めて入っていった。
 イギリス本国では吸い上げられるばっかりの派遣労働者とか、イギリスでは少数派のプロテスタントとか、果ては親のない孤児とかまで。彼らは新天地で一旗揚げようとシャカリキになって頑張る。
 頑張った結果、金持ちになり、奴隷を使ってビジネスに成功し、資本家への道をガンガン進んでいく者も現れる。
 ところが、ようやく金持ちになっても、税金はイギリス本国に納めなくちゃいけない。その不満が爆発して独立戦争をして独立を勝ち取った。
 独立宣言をしたのが1778年。合衆国憲法を制定したのが1781年。独立戦争が終結したのが1783年。

凡太: 日本では10代将軍・家治の時代で、田沼意次が幕府を動かしていた時代ですよね。アメリカって、ほんとに新しい国なんですね。

イシ: まったくねえ。それがたった70年後には蒸気船2隻をまじえた黒船4隻で日本にやってきて、日本は大騒ぎになるわけだからねえ。

産業革命

 それだけの急成長の背景には、もちろん産業革命というものがあったわけだね。
 産業革命は最初にイギリスで起きて、世界が一変していったんだけど、産業革命って、一言で言えばどういうことだと思う?

凡太: 技術が発達して、産業に機械が導入されて大量生産や大量輸送が可能になった、ということですよね?

イシ: まあ、そういうことだね。
 では、なぜそれが可能になったのかは分かるかな。

凡太: 頭のいい人がいろんなことを発明したからです。蒸気機関とか……。

イシ: そう答える人が多いけれど、それだけじゃ産業革命は起きない。
 誰かが天才的な閃きですごいアイデアを出したとしても、それを実現するためには資本や資源が必要だ。
 それと、大量生産を求める人口と顧客も必要だね。
 そのすべてを持っていたのがイギリスだったんだね。
 イギリスには莫大な資本を持つ資本家がいた。そしてフランスから奪った植民地からは、資源材料も仕入れられたし、植民地を支配する金持ちたちは商品の消費者にもなってくれた
 そしてなによりも人口の増加
 イングランドとウェールズを合わせた人口は、1600年には約425万人、1700年には575万人で、100年間で150万人増えて1.35倍になったんだけど、1800年には350万人増えて925万人に、1850年には一気に1800万人と、たった50年で倍近くにまで増えている。
 農業革命で食糧の供給が増えたことで、人が餓死しなくなったからだ。
 人が増えれば消費も拡大するし、労働者人口も増える。こうしてようやく産業革命が可能になったんだよ。

 ちなみに日本の人口は関ヶ原の戦いがあった1600年に約1200万人、戊辰戦争というクーデターが起きた1868年に約3300万人と推定されていて、260年で約2.8倍に増えているけれど、イギリスはこの間に425万人から1800万人だから、約4.2倍以上増えていて、増え方はイギリスのほうが凄まじいね。

凡太: 3400万人を抱えていた幕末の日本には産業革命は起きていなかったから、古い体制のままで3400万人を支えなければいけなかったわけですね。

イシ: そうだね。植民地もなかったし、資本主義というシステムもまだなかったといっていいね。
 幕末の激変を考える上で、まずはそのことをしっかり頭に入れておかないといけない。

 それと、19世紀も後半になると、石油という強力な地下資源の発掘が本格的に始まった。
 世界で最初に設立された石油会社はアメリカ、ニューヨークの弁護士ビッセルが1854年に設立したペンシルベニア・ロックオイル社で、同社が本格的に石油採掘に乗り出したのはその5年後だそうだ。
 1870年代になるとロシアでも石油産業が発展し、1870年には20万バレルだった原油生産量が20年後の1890年には2900万バレルにまで増大した。
 このロシアの石油産業発展の主役が、スウェーデンのノーベル兄弟とフランスのロスチャイルド家だったんだ。

凡太: わ~、出ましたね、ロスチャイルド家!

イシ: まあまあ……。
 ノーベル一家とロスチャイルド家の登場は、実は世界史的には大きな転換点になっているんだ。
 単に巨万の富を得ていくというだけじゃない。
 もはや「国」という単位で世界を支配するのではなく、富を蓄積した資本家が世界を支配するという考え方がはっきりしていくのがこの頃からだと思うんだよ。
 大資本家は世界中で商売をしているわけだから、その元締めが特定の国に所属している必要はない、ということだね。

凡太: 王様や将軍より会社の社長のほうが力を持っているということですか?

イシ: まあ、そういうことになるかな。だけど、資本家の総元締めみたいな者たちは、表舞台にはなるべく出ないようにする。あくまでも表で世界を動かしているのは「国」という単位なんだと庶民に思い込ませる。そのほうが支配システムがスムーズに働くからだ。

 でも、少し長くなってきたし、この話はものすごく大切だから、また改めてすることにしよう。

凡太: はい~。僕もちょっと疲れてきました~。

イシ: じゃあ、ここでちょっと休憩だな。

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