「人間史」を見つめ直す(7)

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日本書紀に記された原住民殺戮の記録


凡太: では、今僕たちが読める日本書紀に書かれていることは全部デタラメなんですか?

イシ: そうじゃない。概ね実際に起きた事件や紛争、当時の習俗などが記されていると考えていい。
 例えば、日本書紀の第7巻には、大足彦忍代別天皇(おほたらしひこおしろわけのすめらみこと)(景行天皇)の即位や、天皇の武力支配に抵抗する諸族のことが書かれている。

 「熊襲(クマソ)が天皇の命令を無視して貢物を奉らなかった」ので、天皇が筑紫に遠征した。
 周芳(すわのくに)娑麼(さば)(山口県佐波)に着いた天皇は「南のほうに煙が多く立っているから、きっと賊がいるのだろう」と言う。
 そこで配下の者たちを偵察に行かせると、神夏磯媛(カムナツソヒメ)という女の首長が現れて「私たちはすぐに帰順しますので討たないでください。ただ、鼻垂(ハナタリ)耳垂(ミミタリ)麻剝(アサハギ)土折猪折(ツチオリイオリ)という4人の悪い首長がいて、天皇のご命令に従わないと言っています。彼らをすぐにでも討ったほうがよいでしょう」などと進言する。
 そこでまず、まず麻剝を誘い出して、赤い上衣や袴、種々の珍しい物を贈って、従わないという他の3人をもおびき出した。そこで全員を捕らえて殺した。

凡太: 騙し討ちじゃないですか。

イシ: 卑怯なやり方だよね。それなのに堂々と書いている。悪党どもだから殺すのがいちばんいいんだという論理。相手に蔑称をつけているのも共通したやり口だね。

 その後、天皇は九州北部、今の福岡県に上陸。
 さらに今の大分県あたりにまで進むと、そこでも速津媛(ハヤツヒメ)という女性の首長が出迎えて、
「この山に鼠の石窟という大きな石窟があり、そこに青と白という二人の土蜘蛛が住んでいます。他にも、直入県(なおいりのあがた)(大分県直入)の禰疑野(ねぎの)には打猿(ウチサル)八田(ヤタ)国麻侶(クニマロ)という土蜘蛛がいます。この5人はみな『天皇の命令には従わない』と言っています。従うことを強いられたら、兵を興して戦うと言っています」と自白させられる。

 そこでまず、天皇軍は椿の木を伐って棍棒を作り、武器とした。それを精鋭の部隊に持たせて山に入り、青、白が率いるツチグモ軍が籠もっている岩屋を急襲して皆殺しにした。流された大量の血は踝まで浸かるほどだった。
 人々はこの殺戮の後、椿の武器を作ったところをつばき市と呼び、血の流れたところを血田と呼んだ。

 天皇軍はさらに打猿を討つべく、禰疑山を越えたが、ツチグモ軍が放った矢が横の山から飛んできたので、一旦城原に戻った。
 そこで軍を建て直し、禰疑山を再び攻めて、まずは八田の軍を全滅させた。
 それを知った打猿は降伏を申し出たが、天皇軍はそれを許さず、打猿率いるツチグモたちは全員谷に追い詰められ、転落死した。

 その後、いよいよ熊襲の地を征服しようと南進するんだけれど、熊襲は強い。
 そこで、配下の者が、「リーダーの熊襲梟帥(クマソタケル)には市乾鹿文(イチフカヤ)市鹿文(イチカヤ)という二人の娘がいるので、娘に贈り物をして手懐けてしまうとよいのでは」と知恵を授ける。
 天皇はさっそくその作戦を実行し、娘たちをスパイに仕立てた。
 さらに、天皇は姉の市乾鹿文を愛人にして、自分の言うがままに従わせた。
 市乾鹿文は天皇に「熊襲が従わないことを気になさいますな。私によい案があるので、私に兵を一人か二人つけてください」と申し出る。
 天皇がそのようにすると、市乾鹿文は父に酒をしこたま飲ませて眠らせ、その隙に父の弓の弦を切った後、自分についていた兵を呼び込み、父の熊襲臬帥を殺害させた。

 こうして熊襲最強のリーダーは戦をするまでもなく殺せたが、天皇は市乾鹿文の冷酷さを恐れ、市乾鹿文を殺させ、妹の市鹿文を火国造(ひのくにのみやつこ)にした。

 熊襲はこうして天皇の支配下に入ったが、その後また勢力を盛り返したので、今度は日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が派遣された。
 日本武尊は熊襲の一族が集まって新築祝いをしている宴に童女に扮装して紛れ込み、リーダーの梟帥(タケル)に近づくと、梟帥が酔ったのを見計らって隠し持っていた短剣で胸を刺した。

 ……とまあ、こういう話をわざわざ何もないところから創作するわけはないから、大筋でそうした戦闘や暗殺があったことは間違いないだろうね。
 つまり、大和を拠点にした政権が地方で抵抗する諸族のリーダーを次々に殺して、列島原住民を支配し、「領民」にしていったということ。そのやり口は騙し討ちや虐殺に近かったということ。

凡太: 日本書紀って、そんな血なまぐさい話だったんですか? 僕たちはただ、712年に古事記が、720年に日本書紀が書かれて、それが日本最古の歴史書だということを教わっただけですけど。

イシ: うん。そこが問題なんだよ。古事記や日本書紀に書かれていることを、当時の政権は「正統なこと」「正当なこと」だと主張しているわけだけど、現代人が先入観なしで読めば、なんとまあひどいことを……という内容も含まれている。それを学校では教えてくれない。ただ、年号と名称を暗記させられるだけ。
 これでは歴史から学ぶもなにもないよね。

 とにかく、大和王権というものができてからは、日本列島に暮らしていた人たちの世界が、それまでの縄文時代の世界とはまったく違う世界になってしまった。
 そして、大和王権の支配のやり方というのは、現代社会のそれと同じだということをしっかり知る必要がある。
 スパイも暗躍する外交戦、嘘を信じ込ませる情報戦、技術援助・経済援助を餌にした懐柔策、大胆な裏切りと大量殺戮……これはまさに今、私たちが生きている時代と同じだ。
 学校で日本書紀の内容を詳しく教えない理由も、そこにあるんじゃないかな。

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「銅鐸(どうたく)」の謎を寓話風に解き明かすファンタジー風の中編小説。1988年、たくきが33歳のときに執筆した幻の作品。日本という国がどのようにしてできていったのか……記紀が大陸からこの列島に渡ってきて原住民たちを支配した「利口の民」が作り上げた神話だとすれば、この物語は彼らに征服された日本原住民たちにとっての隠された神話か。幸福な生き方を追求した人たちと、不思議な神(?)との対話が現代人に教えてくれるものとは?


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