俺:俺はなぜおまえさんと話ができるんだ? そもそもおまえさんはのぼるなのか?
あたしはあんたが「のぼる」と名前をつけたネコの実体だよ。
あんたが「現実」だと思っているこの世界では、あたしはネコという動物で、ネコの肉体に縛られている。脳みそもあんたよりずっと性能が悪いし、寿命も短い。
でも、あたしの「実体」は別にある。眠りに落ちて、肉体の制限から少しだけ解き放たれている間、あたしはあたしの実体に近づける。
ということは、俺もおまえさんも、肉体とは別の「実体」があるのか?
その通り。あんたの実体は、肉体に縛られているこの世界とは別のところにある。あんたらは寝ている間にその実体に戻りつつあるんだが、起きた瞬間に忘れてしまい、また肉体という入れ物に閉じ込められる。だから、肉体に縛られている間は、肉体が認識する世界しか見えないし、感じられないのさ。
今、こうしてあんたと話ができているのは、あたしもあんたも肉体という入れ物から解き放たれて、実体に戻りつつあるからさ。
完全には戻らず、「戻りつつある」というのは、完全に戻れるのは肉体が滅んだ後だからさ。
で、人間ってやつは欲が深くてね。その分、こうして夢の中でも、実体の世界のことは見えてない。中途半端な段階とでもいうのかな。
この中途半端な段階での会話も、あんたは目が醒めれば忘れている。あたしもまた、眠りから醒めたときはネコという肉体に閉じ込められている、ってことだね。
もう一つ。
あんたが「現実」だと思い込んでいる「肉体と物質に縛られた世界」では、あんたのほうがあたしより威張っていられるけど、こうして眠りの中で夢を見ている間は、あたしのほうが世界の真相をずっとよく知っている。欲が少ない分、実体の世界に近づけるんだな。
だから、ここではあたしがあんたの教師だ。
フフフ……うまくできてるよね。