用務員・杜用治さんと野良猫の会話

のぼるとの会話


いつからか、猫が通ってくるようになった。
食い物を分けているうちに、俺はその猫と話ができるようになった。
話ができる、というのとは少し違うかもしれない。
俺が眠っている間に見る夢の中に、その猫が出てきて、俺と会話をするのだ。

目が醒めたときに覚えている夢は、起きる寸前に見たものだけだという。
実際にはそれよりずっと長い時間、夢を見ているが、起きたときにはすっかり忘れているらしい。
しかし、歳を取るにつれ、なぜか俺は、起きたときに覚えている夢の「量」が増えていった。最初はそういうものなのかと思ったが、誰にきいても、そんなことはないという。
だから、多分、俺の脳は普通の人間とは少し違うのだろう。
猫との会話は、夜よりも、昼寝しているときのほうが多い。
起きると、そばに猫がいるわけではない。
だから、「猫と会話している」というのとは少し違うかもしれない。
とりあえず面白いので、忘れないうちにその「夢の中の会話」をこのノートに記録しておくことにした。

そうそう、猫には「のぼる」という名前をつけた。理由は特にない。

「現実」とは何か

俺俺:俺はなぜおまえさんと話ができるんだ? そもそもおまえさんはのぼるなのか?
あたしはあんたが「のぼる」と名前をつけたネコの実体だよ。
あんたが「現実」だと思っているこの世界では、あたしはネコという動物で、ネコの肉体に縛られている。脳みそもあんたよりずっと性能が悪いし、寿命も短い。
でも、あたしの「実体」は別にある。眠りに落ちて、肉体の制限から少しだけ解き放たれている間、あたしはあたしの実体に近づける。
俺ということは、俺もおまえさんも、肉体とは別の「実体」があるのか?
その通り。あんたの実体は、肉体に縛られているこの世界とは別のところにある。あんたらは寝ている間にその実体に戻りつつあるんだが、起きた瞬間に忘れてしまい、また肉体という入れ物に閉じ込められる。だから、肉体に縛られている間は、肉体が認識する世界しか見えないし、感じられないのさ。
今、こうしてあんたと話ができているのは、あたしもあんたも肉体という入れ物から解き放たれて、実体に戻りつつあるからさ。
完全には戻らず、「戻りつつある」というのは、完全に戻れるのは肉体が滅んだ後だからさ。
で、人間ってやつは欲が深くてね。その分、こうして夢の中でも、実体の世界のことは見えてない。中途半端な段階とでもいうのかな。
この中途半端な段階での会話も、あんたは目が醒めれば忘れている。あたしもまた、眠りから醒めたときはネコという肉体に閉じ込められている、ってことだね。
もう一つ。
あんたが「現実」だと思い込んでいる「肉体と物質に縛られた世界」では、あんたのほうがあたしより威張っていられるけど、こうして眠りの中で夢を見ている間は、あたしのほうが世界の真相をずっとよく知っている。欲が少ない分、実体の世界に近づけるんだな。
だから、ここではあたしがあんたの教師だ。
フフフ……うまくできてるよね。

……どうも、そういうことらしい。
ただ、のぼるは気がついてないようだが、俺はなぜか、目が醒めてもしばらくの間は、夢の中の会話を覚えている。なぜなのかは分からないが……。

本になりました!

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