←   目次   練習   ⇒

14. 「英語的な発想」を楽しむ


郷センセ郷センセ:  今日も生徒は凡太か。まずは前回のおさらいからだ。
「ハナコはユキチよりポチを愛している」
を英語にすると?
凡太 「愛している」は love ですよね。ハナコは三人称単数の主語だから loves。「A より B のほうが好き」は、
like A better than B だったから……、
Hanako loves Pochi better than Yukichi.
ですか?

おお~! 完璧じゃん。よく復習したな。えらいえらいえらい。
ただ、love の場合は better よりも more のほうがしっくりくる、って、海外でもいっぱい女をたぶらかしてきた悪友が言ってたな。
better は good や well を「よりよく」「よりうまく」って比較している感じだけど、more は many や much の比較で「もっといっぱい」っていう感じだから、love のときは more だべ、って。
だからここでは恋愛経験も豊富な悪友にならって、more にしておこうか。

Hanako loves pochi more than Yukichi.

じゃあ、「ハナコは、ユキチとポチ、どっちのほうを愛している?」なら?
凡太 Which does Hanako love more, Yukichi or Pochi?
です。

おお! おぬし、できるな。

Which do you like better, A or B?
(A と B ではどっちのほうが好き?)

の文型だよな。

じゃあ、ここでさらにややこしい話もしちゃおうかな。
Hanako loves pochi more than Yukichi. は、ハナコが love の対象としてユキチよりもポチのほうをより愛している、っていう話だな。
それは分かるよな?
凡太 はい。

じゃあ、「ハナコのほうがユキチよりもポチのことをより愛している」っていうのはどういえばいい?
凡太 え? ええ~? 
Hanako loves pochi more than Yukichi.
じゃないんですか?

それだとさっきと同じじゃん。ハナコが文の主語で、love の対象としてポチとユキチを比較しているんだよな。ユキチはお金持ちだし、まあまあ好きだけど、ポチを愛しているほどの深い愛じゃない……って感じかな。
今度は、愛されている、つまり love の対象はポチだけで、ポチを愛しているのがハナコとユキチなわけだ。ハナコもユキチもポチを愛しているけど、ハナコの愛のほうがずっと深い……と。ユキチもポチのことを好きかもしれないけれど、ハナコがポチを愛するそのパワーにはユキチはかなわない、「ハナコのほうがユキチよりもポチを愛している」っていう意味だ。さっきと同じ文じゃ誤解されるじゃん。まあ、日本語でも分かりづらいけどな。
「ハナコはユキチよりポチを愛している」はどっちの意味にもとれるもんなあ。そうならないように、英語でしっかり言い方を変えたいわけだ。
凡太 うわ~、分からないっす。難しすぎます~。

これは、

Hanako loves pochi more than Yukichi does.

っていえばいい。この does は loves の代用としての do だな。
つまり、ユキチがポチを愛している(loves)度合よりもハナコがポチを愛している度合のほうが more (よりたくさん、よりいっぱい)だっていう意味になる。
つまり、than の後を完全な文にしてみれば、
than Yukichi loves Pochi
だ。
Hanako loves Pochi.(ハナコはポチを愛している)
Yukichi loves Pochi.(ユキチはポチを愛している)
  ↑
この2つの文そのものを比べて、その love の度合が Hanako のほうが more (よりいっぱい)だといっているわけ。
分かるかな? does って1語くっつけておくだけで、文の意味が誤解されなくなる。
凡太 う、う、う……難しいっす。

まあ、あんまりいっぺんにいろんなこと言われてもアッパトッパするだろうから、ここはサラッと聞き流しておいてもいいよ。そのうちに思い出して「あ、そういうことか!」って分かるときがくるかもしれないから。
凡太 アッパトッパ……??

パニクる、ってことだよ。学校で流行らせろや、アッパトッパ。
じゃあ、ついでだからさらにいっちゃおうかな。
「ポチをいちばん愛しているのは誰?」は?
凡太 今度は「誰が愛している」だから、who が主語ですよね。だから語順は普通の文と同じで、

Who loves Pochi most?

です。

すんばらすぃ~! Excellent!

じゃあ、すご~くよくできたから、今日はちょっと一休みって感じで、雑談的な話をするかな。
……といっても、英語のことだけどね。

今、俺が「ポチをいちばん愛しているのは誰?」といったとき、凡太はすぐに「who が主語の文」って分かったよな。
教科書の訳文だと、「誰がポチをいちばん愛していますか?」となっているだろうけど、言葉ってのは生きものだから、いつもそんな風に「主語+動詞+~」みたいな語順で表現するとは限らない。特に会話の場合はね。
「本当かよ、それ?」みたいに倒置(語順がひっくり返っている)になったり、主語が省略されていたりするのはしょっちゅうだ。
あと、動詞で表すことを名詞で表す、なんてこともよくあるな。
例えば、「ハナコは中国語をうまく話す」を英語にすると?
凡太 Hanako speaks Chinese well.
です。

そだね~。「主語+動詞+目的語+副詞」っていう、ものすごく分かりやすい文だけど、speak という動詞を使わずに、
Hanako is a good speaker of Chinese.
とか、
Hanako is a good Chinese speaker.
なんていうこともできる。むしろこのほうが自然な言い方かもしれない。
「中国語をうまく話す」を、忠実に英語にしようとすると「動詞+目的語+副詞」っていう文の形を思い浮かべるわけだけど、この文では、
「中国語をうまく話す」=「うまい中国語の話し手」という「形容詞+名詞」で表現しているわけだ。
「中国語の話し手(speaker)」っていう発想は日本語ではあんまりしないよな。でも「速く走る」=「速いランナー」という発想くらいはすぐにできるだろ。
だから、この発想で、He runs fast. を「形容詞+名詞」で表現してみると……?
凡太 He is a fast runner.
……ですか?

そういうことだね。
サニブラウン・アブデル・ハキームくんは2019年の世界陸上4×100mリレー決勝でアメリカチームに負けたとき、インタビューで
「やっぱ、あいつら速いっすね~!」
っていってたけど、あれを英語にしたとき、
They run fast.
なんて訳しても、味もそっけもないよな。あまりにもあたりまえの文だから、むしろジョークっぽく聞こえて面白いかもしれないけど。
これも、
They are world fastest runners, after all.
なんてbe動詞を使ったほうが自然かもしれない。

「ハナコは料理はうまいけど走るのは苦手だ」
って、凡太なら英語でどういう?
凡太 Hanako cooks well, but runs …… not well. ……とか?

cooks well まではいいけど、runs not well はいただけないねぇ。
凡太 じゃあ、runs slowly ...とか?

お、考えたね。「ゆっくり走る」……か。
でも「走るのが苦手」は「ゆっくり走る」と同じか? ジョギングみたいにゆったり走ることも大切な練習法だから、ゆっくり走る=走るのが苦手、ってことにもならんだろ。
要するに、それって「動詞+副詞」で発想しているから行き詰まっちゃったんだね。「うまく」はwell だけど、「下手に」はどういえばいいんだろう、とか。
これも、「形容詞+名詞」でいえないか、って考えてみると、簡単にいえたりするよ。

Hanako is a good cook, but a bad runner.

cook は「料理する」っていう動詞の他に「料理人、料理する人」っていう名詞もあるって教えたよな。run する人はもちろん runner だ。
good な料理人、bad なランナー。good も bad も、めっちゃ簡単な単語じゃん。動詞はbe動詞。This is a pen. と同じ文だよ。

さっき、「中国語を話すのがうまい」は speak Chinese well でいいんだけど、 a good speaker of Chinese でもいいっていったよね。
その反対で「中国語を話すのは下手」なら、a poor speaker of Chinese っていえる。この場合の poor は「貧乏な」「貧しい」じゃなくて「へたくそな」っていう感じを表す形容詞だね。

「形容詞+名詞」でいえれば、英文はすごく単純になる。もう少しやってみようか。
「ハナコは音楽がよく分かる」ってどういえばいいかな?
凡太 「分かる」……は、understand ですか?
Hanako understands music well.
……とか……?

うん。英文としてはどこも間違ってない。100%正しい英文なんだけど、なんか固いよなあ。音楽理論を研究しているのか、って感じ。
だけど、
Hanako has a good ear for music.
なんていえば、普通の会話で自然に使える感じになる。
この ear は「耳」なのに ears って複数形になってなくて、a がついてるよね。これは「耳」というよりは「聴く能力」のことをいっているから複数形にしないでいい。で、good っていう形容詞がついているので、 a をつけたんだけど、この a の使い方は難しいかな。
逆に、「音楽が分からない」なら、
She has no ear for music.
でいい。
これって、「この机には脚が3本しかない」を、
The desk has only three legs.
っていったときの、動詞 have の使い方と同じだね。「ある/ない」を「主語+have」でいう、という発想。
「音楽を聴くための耳(鑑賞力)を持っていない」=「音楽がわからない」という発想だね。

要するに、「英語的な発想」というか、英語という言語の構造から自然に形作られる思考法みたいなものに慣れていくことが大切なんだ。
他にも、主語を何にするか、というのも大切で、頭を柔らかくしておかないといい英文が浮かばない。
例えば、何かを差し出されたとき「これ、くれるの?」って英語でききたいとき、文の主語は何にすればいい?
凡太 「これ、くれるの?」……「くれる」のは「あなた」ですよね。「あなたはわたしにこれをくれるのですか?」……って、相手にきいているから、主語は you です。

うん、そういう発想で、主語を you にすると、動詞は「くれる」=「あげる」ってなるから give とかだよな。で、主語 you の意思をきいているから、
Will you give this to me?
みたいな英文にしてしまう人が多いのよ、日本人的発想だと。
でも、Will you give this to me? っていうのは文法的には正しいんだけど、なんか露骨というか、ぎくしゃくした言い方にきこえてしまうんだな。
こういうときは、もらう側の自分を主語にして、
Can I have this?
ってやるとスマートな言い方になる。「私はこれをもらって(have)いい(can)のか?」という発想。
これは May I ~? ってやると、もっとていねいな言い方になるね。

そうきかれた相手は、Yes, you can. とか Sure!(もちろん!)なんていう。

これを、ものをあげる側から「あげるよ」っていう場合も、
You can have it.
っていえるね。

じゃあ、この感じで「俺の車、使っていいよ」はどういう?
凡太 You can drive my car.
ですか?

そうそう。使うのは話している相手だから、主語を you にすればいいよね。
「使う」は use という動詞が使えるから、
You can use my car.
とかでいい。

じゃあ、その調子で「今年の冬は雪が少ないなあ」ってのを、it じゃない主語でいえないかな。
凡太 雨が降るとか雪が降るとか晴れているとかって、天気のことをいうときは主語は it なんですよね。it を使わないでいう、って?

we を主語にしてみるんだ。そうすると、

We have little snow this winter.

なんていいかたもできる。この主語の we は、自分を含めて漠然とこの地に住んでいる人全体、って感じ。
「少ない雪(little snow)」を have している、っていう発想だね。こういうのが英語的な考え方だな。
have っていう動詞はすごく広い意味で使えるだろ。
他にも「彼の髪は黒い」なんていうのを、「彼の髪」つまり his hair を主語にすると、
Is his hair black?
だけど、he を主語にして動詞の have を使えば、
Does he have black hair?
っていうこともできる。
「髪が黒い」=「黒髪を持っている」っていう発想だね。髪が「黒い」は、dark なんていう形容詞でもいいかな。
Does he have dark hair?

こんな風に、主語をどうするかを考えたり、簡単な動詞の使い方をいっぱい覚えることで英語的な発想に慣れていける。
教科書に載っている、型どおりというか、数式みたいなカクカクした例文じゃない、英語っぽい表現を覚えて言える、ってカッコいいだろ?
そういう楽しみ方を探すのも、英語に興味を持って、うまくなっていくコツだよ。
凡太 わ~、なかなかそこまでは……。

まあ、いいさ。今日はついついいっぱい話しちゃったからな。いっぺんに理解しようとしても無理だろ。
あとは何度でも読み返しながら、自分で楽しめるかどうかだな。自然と興味を持てなければそれまでだしな。
俺は中学生の頃は、教科書に出ている例文を、もっと英語らしい言い方でいえないかって、常に別の表現や単語を探していたよ。そういうタイプの生徒は教師から嫌われたりもするんだけどな。大切なのは教科書通りに暗記することじゃなくて、自分から興味を持って、どんどん先に進んでいくことだから。
この前もいったけど、英語という言語の持つニュアンスを知る、感じる。英語的な思考や文化を知って発想を広げるってことが教養なんだよ。
……な~んてな。偉そうだな、俺。
まあ、凡太より50年以上長く生きているからな。このくらい偉そうにしてもいいか。

じゃあ、今日はここまでにしておこうか。
凡太 はい。


今日のポイント:


←   目次   練習   ⇒
Facebook   Twitter   LINE