←   目次   練習   ⇒

8. 「後は自分でやれ」の中身とヒント


郷センセ郷センセ:  今日も生徒は凡太か。まずは前回のおさらいからだ。
「ハナコは広島カープが好きじゃないんじゃないの?」
を英語にすると?
凡太 あ、またやってない文を……。応用編ですか?
「好き」はlikeですよね。ハナコは三人称単数の主語……。
「好きじゃない」は否定で、don't like……だけど、助動詞doは三単現の形があるんですよね。だから doesn't like。
それをさらに疑問文にするんだから、doesn'tを主語のHanakoの前に持ってきて……、
Doesn't Hanako like Hiroshima Carp?


そだね~。よくできたな。主語はハナコで3人称単数。ハナコが広島カープが好きか嫌いかってのは現在の文だから、三単現にあてはまる。で、「好きだ」って普通に言うなら、
Hanako likes Hiroshima Carp.
「好きじゃない」は、助動詞のdoを使って、その後ろにnotをつけたのを動詞の前に置くけど、助動詞のdoは他の助動詞と違って三単現があるんだったな。
だから、「ハナコは広島カープが好きじゃない」は
Hanako does not like Hiroshima Carp.

does not の短縮形はdoesn'tだから、会話なんかでは短縮形を使うほうが普通だから、
Hanako doesn't like Hiroshima Carp.

これをさらに「好きじゃないんじゃないの?」って、疑問文にしたいわけだから、doesn't っていう助動詞の部分を主語の前に持ってきて……?
Doesn't Hanako like Hiroshima Carp?

うん。よくできた。
じゃあ、すご~くよくできたから、今日はちょっと一休みって感じで、雑談的な話をするかな。
ほんとは語順と文の構造に関しての重要なことに進もうと思っていたんだけど、ちょっと休憩も必要だろうから。
……といっても、英語の話だけどね。

今、「広島カープ」ってサラッとやったけど、この「カープ」が特殊だって話は前回したよな。なんで広島だけが魚やねん、ってことじゃないよ。なんだったっけ?
凡太 複数形が単数形と同じで、sがつかないっていうことですよね?

そだね~。よく覚えてたな。単数形と複数形が同じ形。こういうのを「単複同形」って言ったりするな。
で、野球は一人じゃできないから、チーム名は複数形を使うのが普通になってる。日本のプロ野球チームの名前を全部いえるか?
凡太 はい。知ってます。
セントラルリーグは、古い順に……
  1. 読売ジャイアンツ
  2. 阪神タイガース
  3. 中日ドラゴンズ
  4. 横浜DeNAベイスターズ
  5. 広島東洋カープ
  6. 東京ヤクルトスワローズ

パシフィックリーグは、
……です。

すげ~な。俺はそこまで完璧には言えないよ。
そっか~。大洋ホエールズとか阪急ブレーブスとか西鉄ライオンズとかってのは今はもうないのか。
バファローズは近鉄じゃなかったのか……。野茂がいたチーム。
凡太 昔あったって聞きました。ぼくが生まれる前になくなったっす。野茂って、日本人で初めてメジャーリーグの選手になったっていう野茂英雄選手ですか?

そうそう! そんなに昔なのか……俺もすっかりじじいになったってわけか。
……それにしても、凡太はプロ野球詳しいんだな。好きなのか?
凡太 野球は下手っすけど、クイズが好きなんです。プロ野球のこととかオリンピックのことなんかはクイズの問題によく出るから、覚えるんです。

おお、そうか。そういうのが大事なんだ、って話をしたかったんだよ。今日は。
英語は日本語と文の構造がまるで違うから、日本人が英語を身につけるのは簡単なことじゃない。文の構造や、物事の考え方が違うのに加えて、sをつけるかesをつけるか……みたいな、細かなしょーもないルールが山ほど出てきて、これを「覚えなければいけない」って考えると苦痛になるだけだろ。
でも、凡太がクイズが好きで、プロ野球のチーム名とか選手の名前とか、オリンピックの開催地とか昔の選手のこととかを調べたり覚えたりするのは、「覚えなければいけない」ことじゃあないよな?
凡太 はい。好きで調べているうちに、自然と覚える感じっす。

そう、それよ! 英語の細かなルールなんかも、覚えなくちゃいけないと思わずに、面白いな、なんでだろう、なんだこれ、変なの! 他にはどんな例外や変わったルールがあるんだろう? ……って、自分から興味を持つようにすれば、覚えるのが楽しくなる。英語ってアホな言語だな~、おもしれ~からもっと知りたい……ってなる。
そういう気持ちが大切なんだよ。
……って、説教みたいに言ってたら、逆効果か。……難しいな……、いや、面白いんだよ、英語は。
凡太 カープは複数でもsがつかない。シープにもsがつかない……みたいな?

そうそう。
ちなみに、複数形のsをどう発音するかも、ややこしいから面白い。
……これは全部ふつうにsをつけて発音は「ズ」だけど、タイガース(tigars)だけ「ス」って濁らず書いているよな。
でも、本当はtigar(トラ)の複数形も普通にsをつけて発音も同じ「ズ」なんだよな。本当なら「タイガー」って表記したほうが正しいんだろうけど、まあ、複数形のsの発音は強くは発音しないから、実際には「ズ」とも「ス」とも取れるような音なんだよな。「タイガーズ」って濁るより、「タイガース」のほうがスッキリしていてかっこいい、ってことなんじゃないかな。
ゴールデンイーグルスもそうだね。本当ならイーグルじゃなければいけないんだけど、これもスッキリしたいからスって言ってるね。のど、はな、スッキリはホールズ♪ ……ん? これはズってちゃんと濁って発音しているな。正しいな。

実際に「ス」って発音するのは、pやkの音にsが付いた場合だね。南海ホークスの「ホークス(hawks)」がそれだね。
凡太 ホークスは福岡ソフトバンクっす。南海って、いつの時代の話っすか?

野村克也がいたんだよ。あ~、野村監督も死んじゃったか。昭和は遠くなりにけり。
……って、それはいいの。pとかkで終わる語にsがつくと、発音は「ス」ってなるんだわな。

cup ⇒ cups (カップ)
cap ⇒ caps (帽子)
shop ⇒ shops (店)
help ⇒ helps (助ける、助け)

book ⇒ books (本)
ask ⇒ asks (頼む、たずねる)
kick ⇒ kicks (蹴る、蹴り)
look ⇒ looks (見る、見栄え)

ジャイアンツは、「t」のあとにsをつけると発音は「ツ」としかいえないから、これは正しいね。
hat ⇒ hats (周りに縁のある帽子)
sit ⇒ sits (座る)
suit ⇒ suits (スーツ、ピッタリ合う)
……なんかも同じ。

あと、「ベイスターズ」だけど、これは英語じゃない。横浜ベイブリッジのベイ(bay = 湾)と星のスター(star)をくっつけて勝手に作ってしまった造語だから、欧米人には通じない。なにそれ? ってことになるんだな。

そんなしょーもないようなことも、知っていれば雑学クイズみたいで楽しいだろ。そういうノリで英語に向き合うといいよ、って話だわさ。
凡太 英語と関係ないっすけど、広島カープの「鯉」って、なんか弱そうっすよね。なんで鯉なんだろ。オオカミとかにすれば強そうなのに。

そだね~。オオカミは英語で?
凡太 ウルフ……でしたっけ?

うん。wolf
このfで終わる語はちょっとややこしくて、そのままsをつけて「ス」と発音するものと、fをvに変えてesをつけ「ヴズ」って発音するのがある。
単純なやつだと、
roof ⇒ roofs(屋根)
staff ⇒ staffs(スタッフ、職員)
……なんかはsをつけるだけ。
一方、fをvに変えてesをつけるのは、
wolf ⇒ wolves(オオカミ)
knife ⇒ knives(ナイフ)
wife ⇒ wives(妻)
shelf ⇒ shelves(棚)
……なんかがある。
myself(私自身)の複数形はourselves(我々自身)。結構あるね。
オオカミはチーム名としてはかっこよさそうな気がするけど、「ウルヴズ」って発音しにくいし、カタカナにもしにくいからやめたのかな。
あと、オオカミは本来は群れで動くんだけど、「一匹狼」なんて言葉があるくらいで、複数形にしちゃうとイメージがぶれるのかもな。

そうそう、ついでだからさらに雑学っぽい話をぶっこむと、ものの数え方もいろいろあって面白いよ。
「お茶を一杯」はa cup of tea っていう。
そんな感じで、
a bottle of wine ワイン一瓶
a piece of cake ケーキを一切れ(ただの a cake だと、丸ごとという感じ)
a pair of chopsticks 箸一膳 (鋏一丁も a pair of scissors という。刃が2枚で1つだから……)
a pack of strawberries いちご1パック
a bunch of bananas バナナ一房

ただ、よく考えると分かるんだけど、この a ~ of…… って言い方は、その後にはかたまりとか液体とか、固体でも複数のものが集まってていちいち数えないようなものがついてるだろ。いちごや納豆のパックに入っている1粒1粒を数えるやつはちょっと危ないもんな。
りんごとかミカンとか、確実に1つ2つと数えられるものは、ただaをつけて、 an apple や an orangeでいい。
(あ! 単数を表す a は、母音で始まる名詞につくと an になるからな。これは単に発音しやすくするためだな。)
で、「箪笥一さお」とか「車1」とかも、a cabinet とか a carって風にaをつけるだけでいいわけ。
動物も、単数ならaをつけるだけでいいよね。a dogとかa catとか。
ところが日本語では単数なのにいちいち違う語がつくだろ。しかも、鳥は1羽、2羽……、ネコや魚は1匹、2匹……、牛や馬は1頭、2頭……って、数え方が違うし、ウサギは鳥じゃないのに1羽、2羽……っていうのが欧米人には「ほわ~い、じゃぱにーずぴーぽー!!」ってなるよな。
ただ、英語は生きものの単数はaをつけるだけでいいけど、「○○の群れ」「○○の集団」っていう意味になる表現がいろいろあって面白いんだわさ。
今、「バナナ一房」は a bunch of bananas、いちご1パックはa pack of strawberries って言ったけど、このa bunch of~a pack of~ は、オオカミの群れなんかにも使うんだ。
a bunch of wolves
a pack of wolves
は、どちらも「オオカミの群れ」って意味。
packっていうのはキムチ1パック、なんていうときの「パック」の他に、ひとまとめの荷物みたいなのもいうよな。バックパックってのは背中(back)に背負う荷物(pack)のことで、それを背負ってフラフラ旅する人はバックパッカー(backpacker)っていうだろ。
なんか、「ひとまとまり」って感じの言葉だけど、packを「集団」という意味で使うとギャング団みたいなイメージがあるらしい。オオカミとか猟犬なんかがワイワイ移動している感じが「パック」なんだろなあ。だから、「wolves」を野球チームの名前にすると、ちょっとイメージが悪いのかもね。

で、他には、
……なんてのがあるな。
troopは軍隊とか警官隊の意味もある。まさに「猿の惑星」のイメージかな。
あと、sheepやdeerは、集団で生活しているイメージから複数形でsをつけないのかな。でもヤギ(goat)はgoatsってsをつけるのが普通だしね。いい加減だわな。
ヤギはヒツジや鹿に比べると独立心が強いイメージなのかね。まあ、そんな気もするけどね。ヤギって意外と気が強いからな。俺はちょっかい出してパクって噛まれたことある。

特に面白いのは、
a murder of crows(カラスの群れ) murderは「命を奪う」って意味だけどねえ……。ギャング団のイメージかね。

a pride of lions(ライオンの群れ) prideは「プライド」「誇り」だな。peacock(孔雀)にも使うけど、そういえば孔雀が羽を広げたところは誇らしげに自己主張しているイメージか……。

a school of little fish(小魚の群れ) は、文字通り「メダカの学校」だわな。a school of dolphins(イルカの群れ)なんかにも使うけど、イルカは頭いいから、実際に勉強しているのかもね。

コロナのおかげで「クラスター」って言葉が急に日本中に広まったけど、あの「クラスター (cluster)」も集団を表す名詞だな。同種類の物や人が密集している状態を表す言葉だ。
a cluster of bees(ミツバチの一群)
a cluster of infected people (感染者の集団)
なんて風に使うんだな。コロナ、やだね~。
凡太 やですね~。

ま、今日言いたかったことは、クイズやゲームをする感じで英語に接していけば、苦痛に感じることはないんじゃないの? ってことだな。
単語なんか、いっぱい覚えたほうがいいに決まっているけど、「絶対に試験に出る英単語」みたいな、できあいの単語帳片手に「1日50個覚えるのがノルマ」なんて暗記しようとしても、辛いし、効率も悪い。
それより、単語を単独で覚えようとしないで、文章の中に出てきた知らない単語を一つ一つメモして、自分なりの単語帳を作る感じでやったほうが覚えるよ。その単語が試験に出るか出ないか、じゃない。自分が興味を持った言葉かどうか、知りたいと思った単語かどうか、ってことが大切なんだ。そうじゃないと覚えてもすぐに忘れるよ。
単語は意味が1つだけじゃないし、使い方も1つじゃない。「走る」のrunと「走らせる」のrunは違う使い方をするってことを理解しないまま「runは走る」って丸暗記しても、実際に使えなければしょうがないだろ。
単語をバラバラに覚えてもダメで、必ず使い方を一緒に覚えること。例文と一緒に覚えることが大事なんだ。
runという単語を単に「走る」と覚えただけではダメなのよ。単語をバラで覚えただけだから、He runs a school. を「彼は学校の中を走る」なんてアホな間違いをやらかす。「~を経営する」とか「~を切り盛りする」っていう意味で使う他動詞のrunもある、って知っていれば、多少外れていても、大きな間違いはしないで済む。
言葉の持つニュアンスを知る、感じる。言葉の背景に見え隠れする思考や文化を想像するっていうことが大切なんだ。
そういう風に興味を深めていくってことが、教養なんだよ。最終的に、英語がうまく喋れなかったとしても、自分から興味を持って何かを知ろうとする習慣が身につけば、それは生きる上での大きな力になるし、人生を楽しむヒントが広がる。
……な~んてな。偉そうだな、俺。
まあ、凡太より50年以上長く生きているからな。このくらい偉そうにしてもいいか。

じゃあ、今日はここまでにしておこうか。
凡太 はい。


今日のポイント:


←   目次   練習   ⇒
Facebook   Twitter   LINE